尾行なんて簡単でしょ?

「尾行なんて簡単でしょ?だってついて行けばいいんだから。」
「わたしの旦那は特徴聞いただけですぐにわかるわ。数時間後に出張でスーツ着て○○駅まで行くのは確実だからそこから追ってちょうだい。簡単な調査でしょ?」
なんてことを言う依頼者が時々いらっしゃいます。

一度も拝見したことのない対象者を、スーツ姿のサラリーマンが一日に何千人と利用している駅構内から対象者を発見するのはとても難易度の高い調査ですし、我々探偵社で予備調査(対象者の顔や特徴などを確認する作業)を行わないで調査本番に入る事はあり得ません。

そこで、とある男性の浮気調査を見てみましょう。
調査の目的は、
『仕事を終えて、会社から出た対象者を尾行』
『対象者と接触する女性がいた場合、その女性の住所地を判明させる』
というものです。

調査としてはごくシンプルな部類に入ります。
では、この調査に当たった調査員の目で調査の経緯を見てみましょう。

 

・対象者の動き
会社を出た対象者は徒歩で歩き出し、しばらくくねくねとした商店街を歩いた後、大通りに出て通りかかったタクシーを捕まえて走り出しました。

・調査員の視点
いきなりの大ピンチ。
当然タクシー対策に車両は用意しているが、車の入っていけない商店街を通られては、車両がついて行くことはできない。そこを通り抜けて、いきなりタクシーを拾われたのでは、調査車両はどうしたって出遅れる。後に続くタクシーが無ければ、徒歩調査員は走るしかない。
全力疾走する調査員。幸い道路は少々混雑中。何とか走って追いつくことができる。
とはいえ、10分以上に及ぶ全力疾走。ここはもう、根性勝負!

・対象者の動き
タクシーを降りた対象者は、とあるデパートの中に入っていき、店内の喫茶店へ入りました。
その店の中で、浮気相手である女性と合流。
二人は楽しそうに話をしています。

・調査員の視点
なんとかタクシーを降りるところまで追いかけることが出来た調査員。
対象者が喫茶店に入るのを確認後、全力疾走の荒い呼吸を静め、何食わぬ顔で喫茶店に入る。せっかく浮気相手と合流したのに、喫茶店の外で待っていたのでは、店内の様子がわからない。

・対象者の動き
喫茶店を出た二人はデパートの店内を歩き回ってショッピングを楽しみます。

・調査員の視点
今回のケースは男性が一緒なのでまだましだが、デパートで買い物をする女性対象者は尾行しにくいものだ。ただでさえ、陳列された商品が視界を塞ぎ「フロア全部が交差点」の様な構造なのだ。
少し目を離すだけで、見失ってしまいかねない。
その上、対象者はあれこれ考えながら歩き回るので、いきなり行動が変わる。(急に方向転換・突然のUターン・いきなり立ち止まる など)
また、女性対象者の場合「下着売り場コーナー」に入ってしまう場合もある。こうなると、男性調査員は張込みしにくいことこの上ない。

・対象者の動き
ひとしきり店内を歩き回った二人は、デパートを出てタクシーを拾いました。

・調査員の視点
再びピンチ。
大型デパートの場合、通常出入口がいくつもある。どの出口から出るのかなど予測しきれるものではないため、調査車両は出遅れる。
調査員再び走る。

・対象者の動き
二人はラブホテル街の近くでタクシーを降ります。
何事か話しながらホテル街を歩き回りますが、結局今日はホテルに入るのはやめにした様子。再びタクシーを拾って走り出しました。

・調査員の視点
ラブホテルに入ってくれれば確実な証拠になったのに残念。
とはいえがっかりしている暇は無い。またしてもタクシーだ。
今度はすぐにタクシーを捕まえることが出来てタクシーでタクシーを追跡する。

・対象者の動き
駅前にやってきたタクシーは、ここで女性だけを降ろしました。
女性は手を振ってタクシーを見送ります。

・調査員の視点
ここまで追いかけてきた調査員はほっと一安心。
今回の目的は「接触した女性の住所を確認すること」。タクシーに乗っている対象者は、一先ず放っておいて、接触した女性に重点をおく。
そして駅前でタクシーを降りた以上、女性は徒歩で帰宅の途につくだろう。
ゴールまであと少し。

・第二対象者の動き
男性と別れた女性は、駅に向かわず、すぐ近くのパチンコ店に入りました。
店内でタバコをふかしながらパチンコを打っています。

・調査員の視点
ゴールまであと少し……と思ったら。調査員、またがっかり。
男性と別れた女性の挙動が豹変するのはよくある事。
この女性の場合、男性と会っている時にはタバコなど吸わなかったのに、今は咥えタバコで、眉間にしわを寄せながらパチンコを打っている。
こういうケースは男性側が年配の金持ちだった場合などによく見られる。所詮、金目当ての付き合い。
こういう女性の姿を確認しておくことも大切。後に依頼者にとって重要な情報となりえるからだ。

・第二対象者の動き
パチンコ店を出た女性は、駅に向かい電車に乗りました。

・調査員の視点
この女性は約4時間パチンコを打っていた。時刻はもう十分に遅くなっている。ここからはあちこち立ち寄ることはなさそうだ。
調査員はほっとして、しかし気を抜かずに追跡を続行する。

・第二対象者の動き
最寄り駅で電車から降りた女性は、駅前に停めていた自転車に乗って走り出し、帰宅の途に向かう。

・調査員の視点
再び大ピンチ!
自転車は車両と違って交通量の少ない交差点なら、平気で信号無視をする。
狭い歩道でもするすると走っていく。
ほとんどの場合、ノンストップで移動を続けるのだ。ある意味、車両よりも追いかけにくい交通手段だ。

・第二対象者の動き
自転車に乗った女性は、静かな夜の住宅街をゆうゆう走って行きます。
下り坂を走り終えた女性は、坂の途中にあるマンションに入っていきました。

・調査員の視点
対象者がマンションやアパートに住んでいた場合、何号室に住んでいるのかまで確認しなければならない。

・第二対象者の動き
エレベータに乗り上階の部屋へ入っていきました。
無事女性の住所を突き止めることが出来た。

 

どうでしょう?
「対象者の動き」はごく普通ですが、追いかける「調査員の視点」側では大変です。
何気なく普通の動きをしている人間を尾行するだけでも、これだけの労力を使っているのです。